娘がいるから出来ること


「パソコンに向き合う時間よりも、娘や自然と向き合う時間が多い日常だからこそ生まれるものがある気がします。」

娘を身ごもったころから、「益子、くらしの土産」という活動を始めて、今年でどちらも3歳。やっと、自分で歩けるようになったような感覚。

春、はじめてのネット販売をcookpad さんが主催する komercoさんにて始めました。その流れで、インタビュー記事を書いてもらいました。

そのご紹介です。

クリエイターの日々ごはん【益子、くらしの土産店】

2020年07月24日配信


クリエイターさんの
日々の食卓を訪ねて

今回お話をお伺いしたのは、栃木県益子で商品の企画・販売を行う「益子、くらしの土産店」を運営される家族ユニット「Neharu」さんです。

季節ごとの手仕事を大切にしながら、暮らしを大切に暮らしていらっしゃる家族ユニットNeharuを代表して、奥さまである仁平彩香さんにインタビューしました。

Goodsの製作に込める想いから日々の暮らしのことまで、たくさんお話を聞くことができました。

益子に、根を張る。
育っていく。
Neharuの誕生

ーー Neharuさんのご活動内容について教えてください。

彩香さん:栃木県益子町で季節と暮らし、それを「益子、くらしの土産」の商品=Goods にしていく活動をしています(商品をあえて “Goods” と呼ぶ理由は後ほど)。
家族で活動していて、夫は農業を中心に暮らしを「育てる」仕事を、妻の私は暮らしを「伝えるデザイン」の仕事をしています。3歳になる娘も一緒に活動をしています。


ーー ご家族で運営されているユニット “Neharu” の由来を教えてください。

彩香さん:「益子に根をはる」という意思を込めています。私の生まれは長崎なのですが、東京で働いていたこともあるんです。転々としていたからこそ、根をはる意思を込めました。「根をはっていけば、育っていく」「季節がめぐり『春』が来る。季節に力をもらって、育てていきたい」そんな願いも込めて、つけました。

(↑旦那様である仁平佑一さんと娘の結芽ちゃん。畑散策が好きのお二人)

ーー Komercoには2020年4〜5月に開催したオンライン陶器市からご参加くださいました。ご出店を決めた理由をぜひ教えてください。また、出店してみていかがでしたか?

彩香さん:正直、仕事は休もうと思っていたんです。娘はこの春から保育園に通い始めたのですが、すぐに自粛になってしまいました。扱う商材も食品なので、ロスがでてしまってもよくないし…とはじめは参加に対して消極的でした。

しかし、お世話になっている窯元の、いつも元気なおばあちゃんの「わしらみたいな古い人間は、こういう時どうしたいいかわからない。若いもんはいろいろ思いつくだろが…」という言葉と、元気のない姿が忘れられませんでした。

「やれること、思いつくこと、やってみよう!」と思い、商品写真を撮り少しずつ商品を追加しながら、まずは試しに…という気持ちで出店を始めました。初めてのネット販売だったので不安も大きかったのですが、試しに出店をしてみると思いのほか好評で、わざわざメッセージを頂くこともあり、とっても嬉しかったです。

普段は直売を行っていないので、お客様から直接いただくお声がとても嬉しかったです。お送りする商品と共に、娘の描いた絵や季節の植物を添えていたのですが、それも喜んでもらえたようです。商品だけでなく、私たちが届けたい「くらし」も届いたようで、とても安心しました。

ーー 娘さんの手描きの絵はほっこりしますね。すでにNeharuの重要なチームメンバーとしてご活躍されていると思うのですが、お子様がお生まれになって、ライフスタイルやお仕事に変化はありましたか?

彩香さん:娘がいないとGoodsは生まれないくらい、とても大切な原動力です。まず今は「娘と暮らす日常」が前提としてあるので、そういう意味では生まれる前とは全然暮らしが違いますね。

「ユニットNeharu」と「益子、くらしの土産」はどちらも娘を身ごもってから生まれ、娘を育てるのと同じように、Goodsも大切に育ててきました。ですので、家族で過ごす時間があって初めて、私たちのGoodsが生まれるような気がします。

例えば、うちは旦那(仁平佑一さん)がマメなので、娘のために地粉(※)でパンケーキや蒸しパンを作ってくれたりするんです。「こういう暮らしが、もっと気軽にできればいいよなぁ」と思い出来たのが、『益子のパンケーキミックス』です。「子ども用だから砂糖は少なめで、米粉が入っていると安心だね」そんな娘を想う気持ちが、商品企画の際のアイデアにつながります。子どもが生まれる前は、一度も作ったことなかったですからね(笑)。子どもがいるとやってみようと思える。だから、娘の存在はとっても大切な原動力です。



※地粉とは、小麦粉や蕎麦粉などのうち、地元で収穫された原料を元に、地元で製粉して作られた粉のこと。

日常と人とのつながりが
Goods を “育てる”

ーー 『栃木、益子のくらしをお土産に。』をコンセプトにされているだけあり、益子の魅力を感じる商品ラインナップが魅力的です。Goodsは毎回どのようにして生まれるのでしょうか?

彩香さん:Goodsは季節と家族で暮らす日々の中から生まれます。娘と散歩やままごとをしながら構想を膨らませたり、仕事を整理したりします。

パソコンに向き合う時間よりも、娘や自然と向き合う時間が多い日常だからこそ生まれるものがある気がします。子どもって、今までできなかったことが1年経つとできるようになったりするじゃないですか。それと似ていてGoodsも子育てと同じく「育てている」感覚です。

また、私たち大人も少しずつ育っているのか、去年は気付かなかったことが今年は気付くようになったり、出来るようになったりするんです。種が芽を出したり、芽を結んだりする瞬間を感じます。ちなみに、娘の名前は「結芽(ゆめ)」というんですが、名前にも力をもらっているのか娘がいるおかげで、芽が結ばれているのを感じます。

アイデアができると形になるのは早く、1か月ほどの間に新しいGoodsをいくつも開発することもあります。この時のために、季節と家族で暮らすというこの日常を何よりも大切にしています。

(↑カゴいっぱいに収穫された菜の花)

ーー 商品開発やアイテム選びにおいて、大切にしていることやこだわりを教えてください。

彩香さん:私たちは、商品のことを「商品」でなく「Goods」や「くらしの土産」と名付けています。「売れる」からつくるのではなく、“いいもの” に少しの工夫やデザインを加えて、 “お土産のように誰かの暮らしに持ち帰ってもらうような形にできないかな” という思いを持っています。

東京で働いていた頃は毎日が必死で、暮らしがとても殺伐としていました。自炊もしないし、季節を感じることもありませんでした。時々ふるさとの田舎を想い、暮らしに取り入れたいと思っても「考えただけ、買っただけ」で何一つ出来なくて、どんどん苦しくなっていきました。

私みたいに、暮らしを変えたくてもなかなか出来ない人のほうが多いと思うんです。そんな方々に届くといいな…と思いを馳せ、デザインを考えます。

また、益子は自営業の方が多く、いいものをつくる方々がとても近くにいます。だからGoodsが出来上がるまでの仕事っぷりや、人となりまでもよく見えます。こういう背景みたいなものが少しでも伝わるといいなぁと思い、素材を選び、製作しています。

ーー ブログやInstagramを拝見していると、一つの商品が私たちの手元に届くまでに色々な方の手を経ているんだという、当たり前のことに気づかされます。今のお仕事をされる中で、人とのつながりをどのように感じられますか?

彩香さん:私自身が移住者なので、人のつながりがとても心強く、時に涙がでるほど嬉しいものです。
初めて商品化したのは『菜種油』ですが、油をしぼるまでに、種を植え、育て、管理し、収穫してくれる地元の方々がいなくてはできません。でも、地元の方々は「搾油やデザインの過程は自分たちにはできない」と、私たちのことも応援してくれているんです。地元の方々に役割があるように、私たちにも役割があるというのはとても光栄なことですよね。つながっているからこそ、私たちのできる仕事を探して、それを誰かに伝えたいですね。そして、こういう風に多くの人がつながりやGoodsを育てていくことで、「私たちの」ではなくて「益子の」お土産になっていくんだと思います。

(↑菜種油は普段の食卓でも大活躍。メイドイン小宅古墳の菜種油は、2020年8月下旬販売予定。菜種油が入ったポップコーンセットも同じく8月下旬販売予定)

“かめ” を商品にしたい!
益子のおばあちゃんとの出会い

ーー 思い入れのある商品とそのエピソードを教えてください。

彩香さん:「益子焼の小さなかめ、梅干し」という商品ですね。

私は益子に地域おこし協力隊という仕事で移住したのですが、当時 “甕(かめ)” に惹かれて、窯元を訪ねたことがあったんです。そこで「売ってけど、売れねーぞ(売ってはいるけど、売れ行きはよくない)」と言いながら、昔ながらの価格とやり方で作り続けているおばあちゃんに出会いました。実直な仕事をしている姿が印象に残っていて、「倉庫の一番奥でほこりをかぶっているこの甕を、いつか商品にしたい!」と思っていました。

地域おこし協力隊を卒業して結婚し、出産したころ、旦那が試しに梅干しを仕込んでいたんです。「よし、試しに梅干しをかめに入れて売ってみよう」と生後3か月の娘を抱いて仕入れに行きました。

最初の年は20個限定で作った甕シリーズですが、今では季節ごとにデザインや中身を変え、Neharuの定番商品と言えるまでに育ちました。おばあちゃんにも「たいしたもんだ!!」って言ってもらえ、とても嬉しかったのを覚えています。

(↑取材をした6月上旬頃はしそ漬けが終わったところでした。土用干しを経て、8月中旬からかめとセットで梅干しを販売予定とのこと)

お世話になっているおばあちゃんは、今も季節で色味を変えたいという私たちの要望を聞き入れ、デザインを一緒に考えてくれています。親戚のおばあちゃんのような存在もできた、とても大切なGoodsです。

(↑益子の伝統釉「青磁」のかめは2020年夏の限定色として開発。にんにくみそはこのかめとセットで販売中です)

ーー「益子、くらしの土産店」で初めて商品を購入するユーザーへおすすめのアイテムはどれですか?

彩香さん:益子焼の小壺に入った『バジルソルト』です。こちらは登り窯で焼成された一品で、益子の土と登り窯での焼成にこだわった逸品です。友人でもある「川尻製陶所」さんがつくった小壺に、益子のバジルと焼き塩でつくったバジルソルトが入った唯一無二の品です。贈り物にもおすすめです。

ーー お二人のお気に入りの商品とその理由についてもお聞かせください。

彩香さん:「パンケーキギフトセット」です。こちらはえのきだ窯さんとの初めての仕事です。手と暮らしに馴染むとてもいいうつわをつくられていて、何か一緒にできないかなと1年以上構想を練り、今年やっとGoodsに出来たものなんです。イギリスの水差しからインスピレーションを得たという小さなピッチャーは一点一点違うフォルムが味わい深く素敵です。新型コロナウイルスと付き合う中で、おうち時間を彩り豊かにできればというと願いも込めて作りました。

なかなか外出ができない中、ピッチャーにシロップを入れるだけでカフェ気分を味わえます。ましてや、自分でパンケーキまで作っちゃったら自慢ですよね(笑)。我が家もいつも子育てに仕事に慌ただしいからこそ、こういういつもの日常が愛おしく思えるような小さな楽しみを大事にしています。

ーー 益子のパンケーキミックスと、いちごのコンフィチュール、そして益子焼のピッチャーの3つが入ったセットなんですね。お家でのカフェタイムが楽しくなりそうです!

旬なものを
シンプルに、美味しくいただく

ーー Instagramでもご自身で栽培・収穫されたお野菜を召し上がっておられるのを拝見します。「自分で作って、食べる」ライフスタイルの魅力はどこにありますか?

彩香さん:“たのしい!おいしい!”に尽きます。
娘が人参や大根、カブを見て「ん~~~!!」って抜くまねをするんです(笑)。そして「トト(お父さん)の!」って言うんです。こういう姿をみて、育てる暮らしをしていてよかったなぁと思います。

食べるという営みが家族の思い出とともにある…娘にこういう思い出を残してあげられるのはとても幸せなことですよね。娘は、自分で収穫したものや旬のものをがっついて食べます。

“たのしい、おいしい!” だから、自然とこの暮らし方になるのだと思いますし、これからもこの暮らしを育てていきたいと思います。

ーー 日々のごはんはどのように楽しまれていますか?

彩香さん:美味しいものを、シンプルに美味しい調味料で食べるって本当に簡単で美味しいんです。うちは野菜からパンまで、基本的に菜種油と焼き塩で味付けすることが多いです。益子は美味しいパンもうつわもあるので、何となく選んでも食卓が雰囲気よく仕上がります。

今は旦那が育てたカブが豊富にあるので、漬物にしてみようか、どんな漬物なら買いやすいかな、贈りやすいかな…など、今後のGoods作りのアイデアを考えています。

こんな風に、季節と暮らしているとその時期に豊富に採れて持て余してしまうものがあるので、それを活かして何かできないかなと考えていくうちに、自然とGoodsのヒントになっていきます。暮らしと料理、そして仕事が一体化しているのがNeharuの特徴かもしれません。

ーー 日々の暮らしの中で、幸せを感じるのはどういうときですか?

彩香さん:気持ちの良いお天気の下で家族でご飯を食べることや、採れたてのお野菜を食べるときに幸せを感じます。

春は、よく娘と一緒に菜の花を収穫していました。さっとベーコンといためて、家族で縁側で食べる…といった日常がとても幸せです。贅沢なものではないけど、シンプルなおいしさと幸せがここにはあるように感じます。

“育てる”、“贈る”…
未来のGoodsの種まきも

ーー これから作りたい商品や取り組みたいことなど、教えてください。

彩香さん:1つ目は “育てる” Goodsを作りたいです。例えば菜の花は食べられる上にお花もきれいなので、9月頃に栽培キットを作りたいと思っています。これは実は3年ほど寝かしているGoodsなんですよ。おうちでの過ごし方を充実させたいと考えている人も多いと思うので、自宅で楽しめるものを提案していきたいです。

2つ目は、夫が “育てた” Goodsを。2020年は彼が本格的に農業を始めた年でもあります。自然の力を活かした自然栽培を中心に、野菜やお米を育てています。お米は、合鴨に除草をしてもらって農薬不使用でつくる「合鴨農法」というやり方を、近所のおじさんに習いながら育てています。このお米も形にしていきたいです。

3つ目は “贈る” Goodsを。5月のKomerco陶器市期間中に、母の日やママ友へのプレゼントとして私たちのGoodsを選んでくださった方が多く、とっても嬉しかったんです。私自身が贈り物を選ぶのが好きなので、季節の折々で大切な人に贈りたくなるようなギフトセットを、これまで以上に提案していきたいなと思っています。

あとは店を持ちたいという思いもあるので、まずは自社オンラインショップ開業を目標にやっていこうと思っています。

益子、 夏の調味料ギフト【限定】【割引中!】【梅キャンペーン!¥1,500

(↑ 夏をすこやかに送る、梅酢と梅醤油、焼き塩が一つになった夏限定のギフトセットも)

ーー NeharuさんのSNSでの発信を見て、実際に益子に行ってみたいと思う方は多いと思います。訪れるのにおすすめの季節と楽しみ方があれば教えてください。

彩香さん:益子は、益子焼やパンに野菜など色々あるけど、まずは里山であることが魅力です。どの季節に来ても、季節の折々にぐっとひき込まれる風景をみせてくれます。

春は小宅古墳群の菜の花と桜、ヤマザクラが咲いた「山笑う」山々。夏は風が見える麦畑、緑が美しい田植えの風景や、関東平野に広々と咲くひまわり畑に圧倒されます。秋は、背の高いコスモス畑に可憐な白の花のソバ畑が見られますし、冬はいちご狩りのハウスの光が静かな夜空に映える風景や、霜柱をざっくざっくと歩く楽しみがあります。

そんな中でも私が好きなのは、春も過ぎ山々も新緑に変わっていくGWあたりでしょうか。田植えや農業もどんどん始まり、エネルギーを感じるその姿に元気をもらいます。

(↑小宅古墳群の春の景色)

私たちも出品している道の駅ましこ付近は、小さな川に田園風景が広がります。レンタサイクルもあるので、ここから散策をするのがおすすめです。

ーー 本当に自然に溢れていることがわかりました!どの季節に訪れても、益子の四季折々の姿に魅了されそうです。

今回のインタビューを通して、益子での暮らしや営み、そしてNeharuさんをはじめとするGoods作りに携わる人々の想いがよく伝わりました。「益子、くらしの土産店」のGoodsは、生活の中でつい忘れがちな「四季を感じ、味わうこと」の大切さや贅沢さを教えてくれるものたちだと感じます。

これからも、NeharuさんからどんなGoodsが登場するのか楽しみです。仁平彩香さん、素敵なお話をありがとうございました!

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原文:https://komer.co/komercobanashis/7ygsBjLLGlxthcArw85q

商品のリンクはkomercoのお店に飛びます。在庫がない商品も多く、現在販売しているものは、こちらの公式ウェブショップでも購入いただけます。